フーシ

グンナル・ヨンソン

GUNNAR JÓNSSON

20年以上にわたり俳優として活動。テレビドラマの他、マーテン・トーテン監督『ROKLAND』やRagnar Bragason監督『BJARNFREÐARSON』、フラヴン・グンラウグソン監督『OPINBERUN HANNESAR』、グリームル・ハゥコーナルソン監督『ひつじ村の兄弟』に出演。『好きにならずにいられない』で初めてダーグル・カウリ監督の作品に出演した。

シェヴン

リムル・クリスチャンスドッティル

ILMUR KRISTJÁNSDÓTTIR

1978年生まれ。シリャー・ホウィクスドウッティル監督『ディース(DIS)』、バルタザール・コルマウクル監督『WHITE NIGHT WEDDING』、Ágúst Guðmundsson監督『SPOOKS AND SPIRITS』に出演。現在、本作のプロデューサーを務めるバルタザール・コルマウクル監督のTVドラマ「トラップ 凍える死体」に出演中。

[インタビュー]主演 グンナル・ヨンソン

小倉悠加 (音楽ジャーナリスト)

まずは俳優ありきで書かれた『好きにならずにいられない』の脚本。そこまでダーグル監督が惚れ込んだグンナル・ヨンソン氏(愛称グッシ)とはどのような人物なのか。 ラッキーにも北欧映画賞の受賞をレイキャヴィクで立ち会うことができた私は、ダーグル監督を介してグッシを紹介してもらった。

インタビューを行ったのは 2015年11月。ビデオ撮影の関係で、私が滞在していた部屋に来てもらったのだが、そこはエレベーター無しの4階にあり、階段を昇りきった200キロの巨体は汗だくで、ひと仕事となってしまった。外気は4-5度しかないというのに、Tシャツと薄いジャケット1枚の軽装。「寒い場所でも荷物が少なくて済むよ」とポジティブだ。

小倉(以下Y) トライベッカ バリャドリッドでの主演男優賞受賞お目出度う御座います。また映画『好きにならずにいられない』が各国で好評で、北欧映画賞も受賞しましたね。お気持ちは?

グッシ(以下G) 特に何ということもない。注目されることに慣れてないんでね。注目されることが好きじゃなかった。演技は好きだが、注目は嫌い。注目されなくても演技をすることはできる。

Y 俳優にはなりたかったのですか?

G 演技をしたいとずっと思っていた。演技は14-15歳から始めたけれど、自分がやりたいことと名声の間で葛藤するようになっていった。そして西フョルヅルの小さな街に移り10年間そこで暮らした。

Y ダーグルによれば、あなたが出演したテレビ番組を見て映画を作りたいと思ったそうですね。

G 私がアイスランドのコメディ番組に出演しているのを見て気にとまったそうだ。彼とはノーベル賞の受賞者用に1-2分の短い動画を撮ったことがある。10名の監督がそれぞれ短編を撮る企画で、ダーグルのリクエストは「パンケーキを焼いてくれないか?」だった。それ以来10年音沙汰がなかった。

Y 『好きにならずにいられない』の話がきたのは?
 
G バルト海を航海する貨物船で料理人として働いていた時に電話を受けた。私のために脚本を書いたから、まずはそれを読んで欲しい、私が受けなければ作らないと言われた。なんとも。それで脚本を読んだけど、最初はよく分からなかった。進行は遅いし、特に事件もないし、彼には「あまりいい映画にはならない」としか言えないと思った。でも貨物船は荷待ちで時間もあったから、再度読むことにした。数度読み返して、4日後に「受けるよ」と電話した。

Y フーシと自分との共通点は?

G どちらも身体がデカイ(笑)。 共通点はその程度だ。彼は私よりもシャイで、滅多に誰とも話さない。だから、何も話さないし事も起こさない人物をどう表現するかをじっくり考えた。演技者としての挑戦だ。ラッキーにも撮影開始までに8ヶ月あったから、このシーンはこんな風にしようかと熟考する時間があった。

Y 好きなシーンは?

G クレームブリュレを作るところ。あれは後から足したシーンで、大きな機械があって奇妙なところが好きだ。

Y 撮影期間は?

G 翌年若干の追加撮影はあったけど、基本的には1日12時間で5週間の撮影だった。2013年にあらかた撮影した後、エジプトへ行く機会を狙ってた。結局予算の問題でエジプト行きは断念したため、フーシがエジプトへ行って帰るという話が成り立たなくなり、脚本の変更を迫られた。だから、今のように彼がエジプトへ向かうところが最後のシーンになった。

Y 実際に仕事をする前と後では監督の印象は変わりましたか?

G 以前に会ったといってもパンケーキを焼くだけの1分の短編なので、変わるほどの印象も持ってなかった。この撮影で彼のことをよく知るようにはなった。先週ルベック映画祭に参加した際、古くからの友人同志だと思われてた。10年間も私のための映画を考えてくれたのだから、確かに古くからの友人といってもおかしくないね。

Y 監督の他の映画は見ましたか?

G 全部見たよ。アメリカ制作の 『Good Heart』以外はね。

Y 完成した映画を見てヒットすると思いましたか?

G それは思わなかった。編集には全く関わらず、普通に映画を見に行くような感じで完成した映画を観た。とても気に入ったし感動したよ。ダーグルの映画はどれもよかったから、信頼している。素晴らしい作品になることに疑いはなかった。

Y この映画のヒットで忙しくなりそうですね。今後のスケジュールは?

G まだ分からないけど、毎週海外へ行ってる感じだ。いろいろな賞があるからね。

インタビュー後、「普通の写真じゃない方がいい」という本人のリクエストで、ソファに横たわった彼を撮影。お腹のプヨプヨを触らせてもらうと「座っていいよ」と言われた。断る理由もないのでそっと座ると、脂肪でブヨンと跳ね返される感じが不思議だった。

そして彼はこの翌月、マラケシュ 国際映画祭で主演男優賞を受賞。この記事を書くにあたり「フランシス・フォード・コッポラ監督からトロフィーを渡される時に何と言われたの?」と尋ねたところ、「”あなたのような人が増えれば、世界はもっと幸せになれるのに”というようなことだった」と教えてくれた。確かに。いろいろな意味でフーシのような、そしてグッシのような人が増えれば、世界はもっと住みやすい場所になるのかもしれない。

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