[インタビュー]監督・脚本 ダーグル・カウリ

by Elsa Keslassy, Variety

―『好きにならずにいられない』は、容姿に悩みながら中年を迎えた男性が主人公です。『氷の国のノイ』や『ダーク・ホース』にもある意味通じるテーマですね。アウトサイダーに惹かれる理由は?

ダーグル・カウリ(以下D) のけ者にされる人たちを描こうと思って選んだわけじゃない。最高の登場人物をつくろうとしただけだ。どこか抜けてて場違いな人に興味がある。面白い状況に溶け込めず、浮いてるような人たちだ。そこが主眼だね。登場人物と状況を描きたい。僕の頭にはアウトサイダーという言葉は全くなかった。記者に指摘されるようになって気づいたよ。

―『氷の国のノイ』や『ダーク・ホース』と同様、『好きにならずにいられない』もアイスランドの外に行くことで自分を発見しようとする物語です。カウリ監督もフランスで生まれてデンマークで学生時代を過ごしたアイスランド人として、登場人物に似た心情なのでしょうか?

D 脚本には毎回、夏休みの旅行を入れようとしている。そうでもしないと外国に行けないからね。『氷の国のノイ』ではラストのシーンを撮りにキューバに行ったし、『ダーク・ホース』はスペインでも撮影した。『The Good Heart』のラストはドミニカ共和国で撮った。白い砂浜が猛烈に好きなんだ。きっと前世はハワイのサーファーだったんだろう。ヤシが生えた砂浜を撮りたくて、自分の映画に入れてきた。『好きにならずにいられない』でもフーシを南国に行かせようとしたけど、必要ないということになった。だから今回、夏休みはお預けだったよ!

―『好きにならずにいられない』はロマンチックコメディーというよりも、強烈なキャラクターをじっくり描いたドラマになっています。「Virgin Mountain」という英題を聞くと、『40歳の童貞男』のアイスランド版のような、いかにも分かりやすそうな映画に聞こえますが。紋切り型のロマンチックコメディーにせず、リアルにこだわった理由を聞かせてください。

D 型どおりのロマンスにしてしまうと、話が機械的に進んでしまうような傾向がある。先が読めてしまうんだ。だから僕はわざと紋切り型に面白いひねりを加えようとした。主人公フーシにも型どおりではないエンディングを与えないといけないと感じた。そこで、とても小さな一歩だけど同時にとても大きな一歩になるようなエンディングを迎えさせた。僕たちにとってはとても平凡な行動が、フーシにとって重要な一歩になるんだ。

―『好きにならずにいられない』が世界中の人々に受け入れられる普遍性を持った映画となったのはなぜでしょう?

D これからの人生に向けて大切な一歩を踏み出す1人の男を描いた感動的な話だからだろう。多くの人に共感してもらえるとうれしい。それに加えて、みんな誰かのことを間違って判断して罪悪感を抱いたことがあると思う。キリスト教圏の世界には罪の意識というものがあって、この感情が世界の基礎になっている。『好きにならずにいられない』を編集している時、「フーシ」という名前を逆再生させると「イエス(・キリスト)」と聞こえるのを発見した。もちろん、つづりを逆にしてもそうならないけど、音声を逆に再生するとそう聞こえるんだ。すごい偶然だね。

―グンナル・ヨンソンを見出したきっかけは? 脚本執筆中に彼のことが頭にあったのでしょうか?

D グンナル・ヨンソンは15年ほど前、アイスランドで風刺番組を作っていたときの仲間だった。初めて見た時、一目ぼれみたいになった。才能があるのがすぐに分かって、いつか彼を主役で使いたいという気持ちが高まり始めた。というわけでこの脚本も彼のために書いたのさ。彼こそ映画そのもので、彼なしでは『好きにならずにいられない』はなかったはずだ。すごく才能に溢れていて、他の人には出せない存在感を放っていると思うよ。役者として勉強してきてはいないけど、信じられないほど演技がうまくて正確だった。これからも僕が撮るすべての映画で使いたいね。

―バルタザール・コルマウクル(製作)と作業した感想は? バルタザールの創造の源は何でしょうか?

D バルタザールは才能に満ちていて鋭い洞察力を持った監督である同時にベテランのプロデューサーでもある。製作中、常に気を利かせてくれたおかげで僕は自由に撮ることができた。プロデューサーのバルタザールとアグネス・ヨハンセンが僕の企画を理解してくれて支えてくれたよ。

―自身初の英語作品『The Good Heart』の後、アイスランドに戻って撮影した感想は?

D すばらしい体験だった。親しい仲間と小規模のチームを組んで映画を作るのは心地よかったね。実際、全員が友人なんだ。アメリカで大人数のスタッフと映画を撮っている時は軍事演習みたいな気分だったよ。それはそれでアドレナリンが出て興奮するけど、僕は少人数の方が好きだ。映画を作っている実感をみんなが抱けるからね。

―『The Good Heart』で、外国語を話す役者と外国語の映画を作った経験はいかがでしたか? 今後の映画作りで勉強になったことはありますか?

D 外国語で仕事するのが好きだし、外国語の微妙なニュアンスを勉強するのは楽しい。アイスランド語よりも外国語でダイアローグを書いているときの方が自由に感じることもある。アイスランド語の時は畏敬の念のようなものを持って書いているので、その分外国語で書く時は自由に感じている。楽器を演奏するみたいな感じだね。でもどこで映画を撮ろうと毎回、勉強することがいっぱいある。映画撮影が教育みたいなものだ。これからもいろんな場所で撮影を続けたいね。

―脚本家、映画監督として、どこからインスピレーションを得るのでしょうか? また、あなたは自身のことを北欧の新世代の映画監督だと思っていますか?

D インスピレーションはどこからともなく次々とやって来るよ。なんにも降りてこない時期もあるけど、そんな空っぽの時期が大切だ。空っぽの時期も、実は水面下では潜在意識が高速で動いている。そんな時期を経て創作の時期に入ることになる。僕はある意味、一匹狼で、自分が何かの一部に属しているとは思っていない。アイスランドは生活や文化の面など、いろいろな部分でアメリカナイズされているけど、同時にとても北欧的でもある。スカンジナビアは僕にとってはとても違うように見える。

―現在取り組んでいる仕事は?

D 今はデンマーク国立映画学校で監督養成プログラムの主任を務めている。フルタイムの仕事なので、脚本にはあまり時間を充てられない。でも不思議なことに、今ほど新しい企画がたくさん湧いてくるのはこれまでの人生ではなかった。テレビも映画も両方ね。どの企画に取り組んだらいいか決められないけど、映画作りが待ち切れないよ。

ダーグル・カウリ

DAGUR KÁRI

1973年フランス・パリ生まれ。アイスランド育ち。1995年から1999年までデンマークで映画を学び、卒業制作の短編映画『Lost Weekend』が11の国際映画祭で受賞、注目を集める。2003年、『氷の国のノイ』で長編デビュー。映画制作の傍ら、自らのバンド“スロウブロウ”でミュージシャンとしても活動。スロウブロウはほぼ全てのダーグル・カウリ作品の音楽を手掛けている。近年デンマーク国立映画学校の監督養成プログラム主任にも就任。

映画(監督、脚本)
2015 『好きにならずにいられない』(アイスランド、デンマーク)
2009 『The Good Heart』(アイスランド、米)
2005 『ダーク・ホース』(デンマーク)
2003 『氷の国のノイ』(アイスランド)
1999 『LOST WEEKEND』(デンマーク 短編)
1998 『OLD SPICE』(アイスランド 短編)

アルバム(スロウブロウ名義)
2005 「Slowblow」
2003 「氷の国のノイ」
1996 「Fousque」
1994 「QuicksilverTuna」

プロデューサー:バルタザール・コルマウクル

Baltasar Kormákur 

1966年レイキャビク生まれ。俳 優としてキャリアをスタートし、プロデュースや監督も手がける。監督としての代表作に『101 レイキャビーク』(00)、大ヒットミステリーの映画化『湿地』(06)、マーク・ウォールバーグ主演『ハード・ラッシュ』(12)、デンゼル・ワシントン、マーク・ウォールバーグ共演『2ガンズ』(13)など。監督・脚本を手掛けた『ザ・ディープ』(12)はアカデミー賞外国語映画賞のアイスランド代表作に選出された。近作は『エベレスト3D』(15)。ほか、アイスランドで視聴率50%を記録したTVドラマ「トラップ 凍える死体」(15~)の監督を務めている。

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