黒い土の少女

世界各国の映画祭で絶賛! 韓国アートフィルム界の鬼才日本初上陸

1990年代半ばよりインディペンデントで映画製作をはじめたチョン・スイル監督はユニークな作家である。韓国の大学で映画について学んだ後フランスに留学、パリで大学の映画学科を卒業という異色の経歴もさることながら、映画産業の中心地ソウルから離れ、釜山を拠点にして作品を世界にむけて発信しているチョン・スイル。真に革命的なものは、中心ではなく周縁から登場するとよく言われるが『黒い土の少女』を観れば、多くの人がこの説に同意せざるを得なくなるであろう。

長編デビュー作がいきなりカンヌ国際映画祭「ある視点」部門招待という華々しいデビューを飾り、新作が発表される度に海外の映画祭からオファーが来る作家でありながら、日本での正式な劇場公開は長編5作目にあたる本作『黒い土の少女』が初めてとなる。おしゃれで都会的な韓流ドラマとは正反対の世界。時代に取り残された炭鉱の村を舞台に少女の内的成長を描き、世界標準を軽々とクリアするチョン・スイル。韓国映画史に残る名女優カン・スヨン(『シバジ』)を特別出演として迎えたこの映画は、アート・フィルムの最も理想的な姿を私たちに提示しています。

彼女は決意した。私がなんとかしなきゃ・・・。          

9歳の少女が心に秘めた孤独と悲しみが胸を打つ

少女の妄想が現実と虚構の境界を曖昧にし、世界の様相を一変させるという例は、映画の中で数多く語られてきた。『ミツバチのささやき』(ヴィクトル・エリセ監督)、『アメリ』(ジャン=ピエール・ジュネ監督)、『パンズ・ラビリンス』(ギレルモ・デル・トロ監督)等、枚挙にいとまがない。韓国のTV界で人気の天才子役ユ・ヨンミ扮するヨンリムもまた、苛酷な現実にたった1人で立ち向かう聖なる少女の系譜に連なる資格を十分に持っている。

高度経済成長から見捨てられ、鉱山の閉鎖を余儀なく迫られている村に住む3人の親子。母親の代わりに父と兄の面倒を一生懸命にみる少女の孤独な日常を詩情あふれるタッチで描いた『黒い土の少女』は、小さなヒロイン物の傑作。

人気のないボタ山や荒涼とした山岳地帯の雄大な風景を絵画的な構図でとらえた映像と、無駄なセリフを一切省いたミニマルな物語は、映画全体を寓意に満ちた神話的世界へと私たちを誘います。この世の全ての苦悩や孤独を自分の身で引き受ける決意をしたラストシーンの少女の姿は、実存的な生のあり方を映像で見事に表現し、いつまでも心に残るでしょう。

KAFSトップ News 上映劇場 KAFSとは? 黒い土の少女 俺たちの明日 永遠の魂 妻の愛人に会う