不機嫌な男たち

会社員から映画作家へー異色の経歴をもつ韓国アートフィルム界の超強力新人

2004年4月、チョンジュ国際映画祭の栄えあるオープニング作品として上映された『不機嫌な男たち』は、韓国アートフィルム界の強力なニューカマー登場を全世界の映画人に印象付けた。
映画の原題『可能な変化たち』さながらに大企業のエリート会社員から映画作家へと華麗なる転身を図ったミン・ビョングクは、遅れてきた新人として韓国の観衆の前に登場したのである。
さかのぼること3年、2001年の文化日報紙による文学コンテストで最優秀脚本賞を受賞した『不機嫌な男たち』は脚本家自らがメガホンを取り、新人のデビュー作として映画化。チョンジュ国際映画祭での評判を受け、国内での封切りを待たずにモスクワ、ロカルノ、東京といった世界各地の国際映画祭から招待上映の声がかかり、2004年の東京国際映画祭では見事最優秀アジア映画賞を受賞する快挙をおさめている。

男のミドルエイジ・クライシスをミステリアスに描くアンチ“韓流”ドラマの傑作

青い空の雲間をかきわけながらカメラが進む幻想的なオープニング。このシークエンスはいみじくも『不機嫌な男たち』の主題のひとつを明確に表現している。遠くから見れば徐々に変わるようにしかみえない雲の模様も身近でみると一瞬たりとも同じ姿形をしていない。それはまるで日々刻々と変化し続ける人生にも例えられる。『不機嫌な男たち』は30代半ばを過ぎた2人の男を主人公に、喪失感を抱えた中年男たちの精神的危機をミステリアスなタッチで描いた韓国アートフィルムの傑作。映画は、“退屈でふしだらな日常”と“ありえたかもしれない夢のようなもうひとつの人生”をパラレルに描写し、曖昧さをはらんだ男たちの綱渡り的な生き様を私たちに提示している。『不機嫌な男たち』は“純愛”“不倫”といったメロドラマ的な要素を盛り込みつつ、激しいセックス描写で観客を挑発し、甘いだけの見慣れた韓流ドラマに対するアンチテーゼともいえる実験的精神に満ち溢れた作品である。

これは夢か現実か?ブルーとレッド2色の画面で観客を幻惑する心理サスペンス

本作は、構成上1部と2部に分かれ、各々ブルーとレッドを強調した2種類の映像を交互に挟み込むという緻密で手の込んだスタイルで話が展開されていく。冷たいブルー・トーンの画面は、日常をリアルに描き、暖色系のレッド・トーンでは、主人公2人が夢見る“ありえたかもしれないもうひとつの現実”が描写される。監督のミン・ビョングクは、これら2つの色彩表現を用い、同じ時間帯に存在するそれぞれ異なる2つのエピソードをスクリーンに形象化してみせた。また、決定的な瞬間に登場する“黒い服の男”を始め主演の2人、ムノとジョンギュにからむ女優2人の姿形が相似形を成している等、劇中のあちこちに隠されたパズルの断片が、観る者を幻惑する本作の魅力につながっているのは言うまでもない。

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