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レビュー

ウォン・カーウァイより難解? チャウ・シンチーより爆笑!
そんなアニメーション映画って・・

暉峻 創三 [てるおか そうぞう] (映画評論家)

2005年1月、香港の映画史に画期的な1頁が刻まれた。トー・ユエン、ブライアン・ツェー、アリス・マクのチームによる最新アニメ映画『マクダル パイナップルパン王子』が04年度香港電影評論学会大賞グランプリに輝いたからだ。香港電影評論学会大賞は、香港の最前線で活躍する批評家たちが新春に前年の香港映画を総括して選出する映画賞。これまでにもウォン・カーウァイ、チャウ・シンチーら飛びぬけた才能をいち早く評価しグランプリに称揚してきた、世界的影響力・信頼度抜群の賞だ。そんな賞を今回、『マクダル パイナップルパン王子』は過去のグランプリ受賞者による最新超強力ライバル作、すなわち『2046』や『カンフーハッスル』などをも差し置いて、アニメとして史上初めて受賞したのだ。これまで誇るべきアニメ映画の伝統など無いと思われてきた土地に、ついに《香港の宮崎駿》が誕生した瞬間だった。

物語の乾いたスピード感。風景描写の、時に恐ろしくリアルで時に天国のように夢幻的なタッチ。爆笑させたかと思うとしんみりさせ、芸術的なまでのナンセンスとひどく心に染み入る哲学が平然と同居する・・・・。彼らは、一本調子の成長やバラ色の未来が信じられた時代が過ぎ去ってしまった今という時代を、誰よりも真摯に、真正面から見つめている。

このアニメは、絶望や敗北感、そして非寛容に覆われたこの時代に産み落とされた、小さなひとつひとつの命たちへと贈る精一杯の賛歌であり、愛と寛容の教育であり、希望の結晶なのだ。その、次代へと希望を託そうとする心が世界中の全ての子供たちと大人たちの魂を類例がないほどに深く揺り動かしていく。