パブロ・ラライン監督

Q:撮影にビンテージカメラを使用した理由は?

本編の中に登場するアーカイブ映像と同じフォーマットでの撮影を決断しました。そのことによって、我々は、観客にアーカイブ映像と撮影映像の違いを認識することなく80 年代当時を映像体験させることができると考えたからです。アーカイブ映像が浮き立つことなく観客に当時の時間や空間や質感を鑑賞させることができたのです。使用したのは、1983年型イケガミ・チューブ・カメラ(池上通信機 撮像管カメラ)。このほぼ真四角といっていい4:3のアスペクト比や独特なカラー・コレクション技術をもつアナログビデオカメラで撮影するのは、現代の映画界を牛耳るHD文化への挑戦的な意味もありました。

Q:なぜ映画の中心人物に、たとえば政治家などではなく
  広告マンを選んだのですか?

実際の所、政治家や軍人、ピノチェトの視点、あるいは残虐な独裁と長年にわたって闘ってきたチリの人々の視点をとることも可能でした。しかし広告マンの方がイデオロギー的にもっと破壊的な見方を持っていると思いました。というのも広告マンがやったのは、当の独裁から学んだ道具を使うことだったからです。その点でとても興味深いパラドックスが生まれたのです。
ピノチェトは独裁の下で一つの経済モデル、社会モデルを押しつけました。資本主義です。そしてこの資本主義が持ち込んだのがマーケティングや広告でした。そしてまさにこの道具によってピノチェトは打ち負かされたのです。NO の運動は、マーケティングにつながる論理を利用して民主主義を回復しました。その意味でNO の運動はそれ以後のチリで起きたことを暗示しています。
今日、チリでは、8 人から10人の人間が富を握っています。国家の役割は非常に小さく、企業は巨大です。まっとうな教育を子供に授けようとすればとてもカネがかかり、公教育は劣悪です。社会保険による医療はまあまあだとしても、行き届いた治療を受けようとすればとても高くつきます。私の国は小さな「モール」になってしまいました。そしてこの「モール」への最初の動きこそは、広告とマーケティングによって民主主義を回復したまさにそのやり方にあったのです。

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