グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソン監督インタビュー

Q:『ハートストーン』のストーリーは監督自身の経験に近い?

A:ストーリーの一部は私の経験がもとになっていて、登場人物も家族や友人たちをモデルにしています。ですが脚本を書き進めるにつれ、次第に登場人物たちが新たな性格を手に入れて歩き始めたんです。葛藤の部分はフィクションです。最初は自分の経験をもとに書き始め、そのうちにストーリーに生命が宿って自由な展開を始める。私はそういう執筆スタイルが好きなんです。この脚本を書いていた時はまるで家の中にたくさんの子供たちがいて彼らが次の展開へ導いてくれるような感覚を何度も経験しました。執筆の間、私は『ハートストーン』の作者というよりむしろその世界に住む住人のひとりでした。そして冒頭シーンを撮影する段階になって、軽油や海、死んだ魚のにおいに思わず興奮しました。長いこと忘れていた感覚でしたからね。そうやって私は自分の少年時代をリアルに思い出し、撮影をスタートさせたんです。

Q:少年から大人へと移り変わることの困難や興奮を、ソールとクリスティアンという2人の登場人物を通してどう表現した?

A:純真さの喪失と、自分が何者かということに気付いていく過程ですね。ラストで彼らが自分自身を受け入れるのはハッピーエンドですが、そこに至るまでにつらく悲しい出来事を経験します。一度失ったらもう二度と完全には取り戻すことのできない大切なものを喪失する過程です。ティーンエイジャーにさしかかる多くの子供たちは、自分自身の人生の変化によって二度と元通りには戻らない傷を負うものではないでしょうか。でももしその時に自分に正直であり続けることができたなら、彼らは自分の本当のアイデンティティーに近づくことができる。自分はこうなんだ、自分で人生を選んでいるんだと思えるんです。

Q:漁村という舞台はストーリー展開にどういう役割を持つ? 

A:漁村はソールとクリスティアンが葛藤を抱えることになる大きな要因です。2人とも他人に秘密にしておきたいことがある。ソールにはまだ思春期が訪れず、クリスティアンは自身のセクシュアリティに当惑している。でもその状況ははっきりとセリフには現れません。ストーリーの舞台が“他人と違うことを許容しない場所”であり、一旦秘密が公になればコミュニティが彼らにどんなレッテルをはるのかということを、映画を見ている人に気づいてもらいたいからです。学校の教室から職場まで、世界のどの国、どんな社会にも他人のうわさ話が好きな人はいるものですが、家に帰ればそれらから解放されるという点では違います。田舎の村では家に帰ってもうわさ話から逃れることはできません。解放される唯一の手段は自然の中に身を置くこと。アイスランドで生まれ育った人間にとって、自然は自動的に大きな役割をもつ場所になります。悲しみから逃れたい時、私はいつも自然の中へ歩み入りました。落ち込んだ時に力強さにあふれた山々を見つめると、自分の小さな悩みなんて大自然の中ではどうってことはないと思えるんです。私にとって自然は喜びと自由を見つけられる場所で、映画の主人公たちも同じことをしています。私は普段、自分の心情をあれこれ吐露することはありませんが、山や森、空には気持ちをたくさん話します。自然には真理があります。幸せの源であると同時に、自然はすべてを取り去る力も備えているんです。

Q:映画に登場する子供たちの自由度を、大人と比べると? 

A:『ハートストーン』に登場する子供たちは周囲からの圧力や制限を受けてはいますが、多くの点で彼らの親よりも自由です。アイスランドで育つなかで、周囲の大人たちに対して残念な印象を持つことはたびたびありました。大人の生活は苦労が多く、ある意味で精神がダメになっている。もし幸せで自由な大人がいたならば、その人は皆からおかしな目で見られ、変人扱いをされます。子供の頃の私は早く自分の人生をコントロールできるようになりたいと思いつつも、大人になりたいとは決して思いませんでした。映画の中で大人たちが抱えている問題は、子供たちが日々を楽しんでいる自由と対を成すものです。それは大人たちの社会の圧力が、いずれ子供たちに大きな影響を及ぼすこと、そして彼らの毎日の延長線上に、大人の世界との合流点が必ず存在することを示唆しているんです。

Q:主人公であるソールとクリスティアンをとりまく登場人物たちの役割は? 

A:彼らの世界に様々な関係があり、それが主人公たちの心の葛藤にどのように影響を与えるかということを描くため、というのが一番いい説明かもしれません。私は“マイナー”なキャラクターに至るまですべての登場人物の人生を作品の中に書き込むのが好きなんです。強い女性を登場させたのも私にとってはごく自然なことでした。自立心にあふれた強い女姉妹と母に囲まれて育った私にとって、彼女たちはお手本であり大きな存在でした。ですから従順な女性キャラを理解するのはかなり難しい。ハフディスは私の姉がモデルです。姉は画家ですが子供のころからファンタジーのセンスがあり、神秘的な生き物や奇異な者の住むダークな世界を美しく優しい筆で描く人でした。彼女の描く絵や奇異なものを見つめる目に、私はいつも惹きつけられたものです。アイスランドでは小人や妖精、悪神が登場する神話が多く存在し、子供の教育の上で重要な位置を占めています。

Q:友情を描くにあたってインスピレーションを得たものは?逆に、避けたものは? 

A:映画製作の過程では製作仲間や家族、アーティストなどあらゆる方向からインスピレーションを得ます。特に撮影を担当したシュトゥルトゥラ・ブラント・グローヴレンは多くのインスピレーションを与えてくれました。私たちは映像を無難なものにしてしまうのではなく、描いた構想のまま追い求めるようにしました。恐れを感じた時は、これはどうしても越えなければならないんだと自分に言い聞かせてね。でも恐怖の中へ飛び込んでいくのは、けっこう気持ちがいいものです。それと、夜に見る夢も創造的な仕事に役立つんですよ。夢が自分をベストの状態に整えてくれるんです。

Q:子供と動物は映画を撮るのに最も難しい要素だとよく言われますが、なぜその両方を撮るという挑戦を? 

A:私は子供と動物の映画しか撮ったことがないので、彼らの出てこない映画と比べて難しいのかどうかは分かりません。子供たちと一緒に仕事をするのはとても楽しいんですよ。自分の人生について大きな気づきを与えてくれるから。動物は人の言うことを聞いてくれないので難しいですね。奇跡が起きてくれることをただ祈るしかないんです。

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